タイトル

2017/06/26 放送分

先日、友人の家を尋(たず)ねると、「いらっしゃいませ、森澤さん」と出てきたのは小さなロボット。人工頭脳の進化には驚くばかりですね。
  春夏秋冬、日本酒と、日本の心をこよなく愛する森澤喜義です。

この分野(ぶんや)で技術大国日本の礎(いしずえ)を、なんと200年前に築いた人物がいました。
その人の名は田中久重(たなか ひさしげ)。
江戸時代末期、からくり人形に魅了(みりょう)された彼は、天才的な頭脳と器用さで世間をあっと言わせる「弓弾(ゆみひ)き童子(どうじ)」や「文字書き人形」など、次々と生み出します。
動力源(どうりょくげん)は、すべて木とバネと糸だけ。
設計図もなく、人形の復元(ふくげん)は現代の技術をもってしても、至難(しなん)の業(わざ)と言われています。
やがて、その技術を活かして暮らしに関わる商品を開発するため、75歳で会社を創業。
卓越(たくえつ)した技とその精神は多くの後継者によって受け継がれ、電話、インフラ、そして車の安全制御(あんぜんせいぎょ)から宇宙開発まで、あらゆる分野で活(い)かされています。
発明とは「不可能を可能にする忍耐力」、「何がなんでもやり遂(と)げるという強い意志」。なにより「人の役に立ちたいという志(こころざし)」。
それは新しいものに挑戦する心構えを私たちに教えてくれているようですね。

今宵は豊かな文明に感謝しながら、いつもの熱燗といきましょう。
日々の暮らしに幸せを感じながらの一杯は、きっと明日の活力を生んでくれるのではないでしょうか。
 

 
【こぼれ話】
彼の最高傑作のひとつ「万年自鳴鐘(まんねんじめいしょう)」。1000点以上の手作り部品で構成され、一度巻けば一年動き続けるという驚異の複雑からくり時計です。重要文化財に指定され、現在は国立科学博物館に展示してあります。興味のある方は是非その目でご覧になってみては?

2017/06/19 放送分

友から届いた季節の便り。
手紙の鮮やかな色使いと葉書いっぱいのかな文字に、豊かな感性を感じたひととき。
  春夏秋冬、日本酒と、日本の心をこよなく愛する森澤喜義です。

平仮名の持つ、まろやかな線は、心をゆさぶる力があるようです。
かな文字が生まれたのは平安時代。
当時、唐(とう)の文化に影響を受けていた日本でしたが、遣唐使(けんとうし)の廃止(はいし)により、ようやく国内に目を向けます。それは日本文化の大きな発展への幕開けとなりました。
漢字を元に、四角ばったところを、柔(やわ)らかく崩(くず)して平仮名に。偏(へん)や、つくりからはカタカナが作られたようです。
長い時間と知恵が生んだ日本独自のかな文字。
おかげで、多くの人々が、自分の見聞きしたこと、感じたことを自由に書けるようになりました。
なによりも女性達が自分の言葉を文字で表現できるようになったのです。
その代表が「源氏物語(げんじものがたり)」や「枕草子(まくらのそうし)」。
千年を越えた今もなお、受け継がれ世界中で読まれ続けています。
漢字では表現できない、平仮名のもつ細やかさと、書き手の心を写す不思議な力。
それは、今に続く女性の豊かな感性を支える原動力(げんどうりょく)となっているのかもしれません。
この美しい文字をいつまでも大切に使いたいものですね。

今宵は愛するお酒のラベルを眺めつつ、いつもの熱燗といきましょう。
造り手の思いを味わいながらの一杯は、明日への活力を生んでくれるのではないでしょうか。
 

 
【こぼれ話】
文字の上手い下手は、たぶん自分の思い込み。祖先が作ってくれたこの美しい文字を心を込めて書く入魂の一筆は自分の心を写す大事なもの。
ちなみに2016年、年賀はがきの総発行枚数は32億167.2万枚だったとか。
私も絵手紙、書いてみようと思います。

2017/06/12 放送分

田んぼが広がる田舎道(いなかみち)を走っていると、伸び始めた稲穂(いなほ)が水面(みなも)に浮いて、季節の変わり目を告げているようです。
  春夏秋冬、日本酒と、日本の心をこよなく愛する森澤喜義です。

かつて、台湾(たいわん)の荒れた土地を、豊かな大地へと生まれ変わらせた日本人がいました。
その名を八田與一(はった よいち)。
当時日本の統治下(とうちか)にあった台湾(たいわん)に、土木技師(どぼくぎし)として赴任(ふにん)した彼は、旱魃(かんばつ)に苦しみ貧困(ひんこん)にあえぐ60万人にも及ぶ農民たちの姿を目(ま)の当たりにします。
「この土地に必要なのは水だ」と考えた彼はダムの建設を計画。
しかし日本人に対する地元民の反感。そこから生まれる不信感。そして厳しい現実。
そんな中で、彼の何よりも国を越えた思いに、人々は徐々に心を打たれ、それは熱い信頼と協力へと変わっていきました。
10年の歳月をかけ、当時東洋一と言われたダムが完成。
今も大地に豊かな恵みをもたらし、八田與一(はった よいち)の名は、台湾(たいわん)で誰もが知る日本人となりました。
戦争という垣根(かきね)を乗り越えて成し得た大事業。そこに生まれた、人と人との熱い信頼と絆(きずな)……。
東北大震災には台湾(たいわん)の人々から200億円にも上(のぼ)る義援金(ぎえんきん)が送られたそうです。

今宵もいつもの熱燗といきましょう。
豊かな水と技が育(はぐく)んだ日本酒の味は、きっと幸せな明日を運んできてくれるのではないでしょうか。
 

 
【こぼれ話】

10年の歳月をかけ作られた鳥山頭(うさんとう)ダムは貯水量1億5,000万トン。細かくはりめぐらされた灌漑用水路(かんがいようすいろ)は16,000kmに亘(わた)り、水が行き渡るまで実に2日間も要したそうです。たとえ言葉が通じなくとも、恨まれていても、その人を思う心は、いつか実を結ぶのだと與一さんに教えられました。

 

2017/06/05 放送分

学生時代の友に突然「座右(ざゆう)の銘(めい)は?」と聞かれて、熱い志(こころざし)を抱(いだ)いた、青春時代を思い出しました。
  春夏秋冬、日本酒と、日本の心をこよなく愛する森澤喜義です。

戦後、占領下(せんりょうか)に置かれた日本産業の再生を目指し「通産省(つうさんしょう)」を設立(せつりつ)。
経済大国へと発展(はってん)を遂(と)げる原動力(げんどうりょく)をつくり、日本の歴史を大きく変えた「立役者(たてやくしゃ)」がいました。その名は白州次郎(しらす じろう)。
流暢(りゅうちょう)な英語を話し、ダンディでスマート。日本で初めてジーンズを履(は)いたともいわれています。
1951年。サンフランシスコで開かれた講和条約(こうわじょうやく)の調印式(ちょういんしき)。
時の総理、吉田茂(よしだ しげる)に同行した彼は、外務省が用意した、英語で書かれた演説原稿に激怒(げきど)します。
「公和会議(こうわかいぎ)というものは、同等の立場で出席できるはず。それを相手と相談しながら、その上相手国の言葉で書くとは何事か」と、一喝(いっかつ)。
急遽(きゅうきょ)内容も書き換えられ、日本語の演説文を作成したそうです。
かくして吉田総理は、堂々と声明文を読み上げました。
日本人のプライドを決して失わない彼の姿勢。
国を愛し、人を愛し、心の誇(ほこ)りを決して忘れない。
信念を持って突き進む勇気の大切さを、私達に教えてくれているようですね。

今宵は、日々の幸せを感じながら、いつもの熱燗といきましょう。
先人たちが育(はぐく)んだ今に感謝しながらの一杯は、きっと明日からの勇気を生んでくれるのではないでしょうか。
 

 
【こぼれ話】
通産省を設立したあと、政界から去り二度と戻ることはなかったことから「風の男」とも呼ばれ、晩年には三宅一生のモデルにもなり、トヨタ「ソアラ」の設計顧問などに請われもしましたが、農業に携わりその生涯を終えた「野人の人」白洲次郎。葬式無用、戒名不用、次郎さんの遺言でした。

2017/05/29 放送分

バックパッカーの外国の若者に声をかけられました。
日本語の勉強をしていて、平和公園にも訪れたいとのこと。
バス停まで案内して、後ろ姿にエールを送った帰り道。
  春夏秋冬、日本酒と、日本の心をこよなく愛する森澤喜義です。

一期一会(いちごいちえ)という言葉。
もともとは、仏教の教えですが、安土桃山時代(あづちももやまじだい)の茶人(ちゃじん)、千利休(せんのりきゅう)が、茶道(さどう)の心として最も大切にした言葉です。
これを世に広めたのは、利休(りきゅう)の一番弟子だった山上宗二(やまのうえのそうじ)。
彼も、秀吉(ひでよし)に茶を教えるほどの名人に上(のぼ)り詰めますが、自分の信念を貫(つらぬ)く性格が災(わざわ)いして、秀吉(ひでよし)の怒(いか)りをかい、利休(りきゅう)と同じ不遇(ふぐう)の最期(さいご)を遂(と)げたそうです。
しかし、彼は茶の湯の歴史、道具の由来、何よりも利休(りきゅう)の心を伝えました。
それは多くの書物(しょもつ)となって、そこに流れる精神は茶道(さどう)のみならず日本文化の貴重(きちょう)な遺産(いさん)となっているようです。
「この出会いは、二度と繰り返されることのない、一生に一度のもの。互いに思いやり、誠意(せいい)を尽くす」という、一期一会(いちごいちえ)に込められた思い。
そして生まれる特別な記憶。
人は、一期一会(いちごいちえ)を繰り返しながら、人生を重ねていくのかもしれませんね。

今宵はとっておきの日本酒で、いつもの熱燗といきましょう。
昨日とはまた違う気持ちで味わう一杯は、きっと新しい出会いを生んでくれるのではないでしょうか。
 

 
【こぼれ話】
「一期」はもともと宗教語であり、人が生まれてから死ぬまでの間、すなわち一生を指す言葉だそうです。利休の秘伝書には、「一座一會ノ心、只コノ火相・湯相ノミナリ」とあります。すなわち茶事には火の強さ、湯の煮え具合、そして亭主と客の息遣いの調和が最も重要で、それを生ませるのは、「ただ一つの出会いと思って誠心誠意をつくすこと」ということなのでしょうか。奥が深い……だけど、心に刻んでいたい言葉ですね。